極地研究所 トピックス

【特設ページ】南極隕石発見から50年 ―偶然の発見から世界の先進となる探査へ―

1969年12月21日、南極やまと山脈付近で、日本にとって最初の南極隕石が発見されました。

 

1969年 最初の隕石発見

日本の南極観測の歴史は、国際地球観測年に参加するための大きな国家プロジェクトとして1957年に始まりました。

1957年1月、第1次南極地域観測隊は南極に到着し、昭和基地が設立されました。その後新観測船「ふじ」の就航、極点旅行の実施など、南極大陸内陸部での行動に関する技術やノウハウが急速に深まり、また地磁気、地形、雪氷、気象などの観測がさらに進められる中、1969年、第10回南極地域観測隊(JARE-10)の内陸旅行隊は、やまと山脈周辺の裸氷原で氷床の流動を測定する三角測量調査中に、偶然9個の隕石を発見しました。

トラバース測量中の隊員(JARE-11、国立極地研究所デジタルアーカイブより)

 

1969年12月21日、やまと山脈南方の裸氷帯、青い氷が広がっている地域(青氷帯)を走行していた雪上車が、氷原にひとつの黒い石を発見しました。氷河学者の隊員は「なぜこんなところに石があるのだろう」と思って拾ったといいます。この隊は、最終的に9個の隕石を採集し、日本に持ち帰りました。

持ち帰られた9個の隕石は詳細な分析が行われ、これらは6種類に分類される隕石(Yamato-69隕石)であることがわかり、1973年の学会で報告されました。
ちょうどこの年、同じ地域で測量中の第14次観測隊がさらに12個の隕石をまたも偶然に発見しました。
この出来事が、のちの隕石大量発見の発端となりました。

 

やまと山脈付近で発見される氷上の隕石(JARE-24、国立極地研究所デジタルアーカイブより)

 

組織的な隕石探査の始まり

第14次観測隊(JARE-14)の氷床調査隊が、やまと山脈周辺の裸氷の上で再び発見した12個の隕石(Yamato-73隕石)は、2種類の隕石に分類されました。
続く第15次観測隊(JARE-15)の地質調査隊も、やまと山脈周辺で再び隕石を発見しました。このことにより、この隊は当初の目的であった地質調査から計画を変更し、隕石を探すことにしました。
雪上車を用いた隕石探査は多くの困難を伴いましたが、この隊では15日間の実地調査にも関わらず663個の隕石(Yamato-74隕石)を集めました。裸氷帯に一辺10 kmのグリッドを設置し、グリッド内を規則的に移動しながら、詳細で系統的な調査を行いました。

 

探査に使用された雪上車とスノーモービル(JARE-20、国立極地研究所デジタルアーカイブより)

 

これらの探査の結果、山の周りの氷床の動きに基づいた氷原への隕石の集積メカニズムの原案を考案しました。同じ地域で落下年代の異なる多様な種類の隕石が発見されることを説明するモデルとして、世界中が注目しました。

隕石集積機構の概念図(矢内、1991)

 

日米共同探査

JARE-15による隕石探査の成功は、アメリカの南極研究に影響を与えました。そしてアメリカと日本は、1976年から3年間に及ぶ日米共同隕石探査プログラムを行いました。
雪上車を使った日本の隕石探査とは対照的で、アメリカの探査はヘリコプターと歩行による探査でした。
 この合同探査により、1976年南極横断山脈アランヒルズ付近で大きな隕石(約460 kg)を発見、翌年には南極で初めてとなる火星隕石Allan Hills-77005を含む310個のAllan Hills-77隕石を集めました。南極横断山脈デリックピーク付近では、大きな鉄隕石10個(Derrick Peak-78隕石)も見つかりました。

 

(左)アメリカのマクマード基地に駐機するヘリコプター (右)Derrick Peak-78隕石(鉄隕石)(白石和行氏提供)

 

新たな隕石の宝庫 ―あすか基地とあすか隕石

1984~1985年、セールロンダーネ山地の北側に南極観測の拠点として「あすか基地」が建築されました。セールロンダーネ山地はやまと山脈の西300kmに位置し、広い青氷帯に囲まれています。基地は多雪のためすぐに雪面下に埋もれてしまいましたが、1988~1989年、JARE-29はここを拠点に越冬して隕石探査を行い、およそ1600個のAsuka-88隕石を採集しました。

あすか基地とセールロンダーネ山地の位置

 

 

再び、やまと山脈へ

最初に隕石を発見したやまと山脈周辺には、広大な裸氷帯が広がっています。 JARE-39とJARE-41の隕石探査隊は、過去のやまと山脈周辺における探査結果をもとに隕石がどこに集中しているかを推測して効率的に探査を行った結果、JARE-39により4180個、JARE-41により3554個もの隕石が採集されました。
JARE-39は、南極氷床から初めて微隕石を回収しました。
またJARE-41で収集された隕石で最も重い隕石は50.5 kgの鉄隕石で、1969年以来この地域で発見された隕石の中で最も重いものです。また、 13.5kgの火星隕石も発見され、これはナクライトという種類の火星隕石では世界最大となっています。

 

(左)JARE-41が発見した火星隕石 ©国立極地研究所 (右)南極の氷床から見つかった微隕石(電子顕微鏡写真、野口高明氏提供)

 

ベルギーとの共同探査

それまでの日本の隕石探査は、日本からしらせで昭和基地に向かいそこから探査旅行を行うものでした。近年、南アフリカ共和国と南極大陸を結ぶ航空路ができたことにより、セールロンダーネ山地の北麓、日本のあすか基地(雪に埋没)からわずか70kmのところにベルギーのプリンセスエリザベス基地が新しく建設され、そこを新たな基点としたベルギーとの共同探査が始まりました。2009~2013年の間の3シーズンを通して1000個以上の隕石を発見しました。

 

(左)プリンセスエリザベス基地 (右)JARE-54とベルギー隊 (©国立極地研究所) 

 

引用・参考:

矢内桂三 (2003)  地質ニュース 444号  pp.29-36.

小島秀康 (2011) 「南極で隕石をさがす」成山堂書店

白石ほか (2020)  極地 第56巻1号(通巻110号) pp.2-45.

 

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